色あせぬ魅力に迫る

石山寺の「源氏の間」に座る紫式部像。何に物語の着想を得たのだろうか

 いづれの御時にか、で始まり、795首もの和歌をちりばめた流麗な文体で54帖(じょう)が紡ぐ平安王朝の愛の数々。11世紀初め、女流作家・紫式部が著した「源氏物語」は、文学を超えて美術や工芸、演劇、さらには日本人の美意識や生活文化にも深い影響を与え続けてきた。その源氏の千年紀とされる2008年に先駆け、今も色あせない魅力や奥深さを2年間にわたり多彩なイベントで伝えるシリーズ「源氏物語〜千年の時を超えて」がいよいよ3月に開幕する。

多彩な催し 3月開幕

 「古くからの霊地的な雰囲気や近くの琵琶湖から連想される海。その中で、同じ月の名所だった須磨、明石の情景が浮かんだのでは」

 大津市・瀬田川のほとり。式部が物語の着想を練ったとされる石山寺で、鷲尾遍隆座主は、本堂そばの「源氏の間」に座る紫式部像を見やりながら、当時に思いを巡らせた。

 その物語が文字の上で初めて確認できるのが、式部の寛弘5年(1008年)11月1日の日記とされる。

 「あなかしこ、このわたりに、わかむらさきやさぶらふ」(失礼ですが、このあたりに若紫はおいでですか)。男性から戯れに登場人物・若紫と呼ばれたと、記している。

 「その時、少なくとも若紫を主人公とした物語は完成し、そこそこ広まっていたのでしょう」と、中西進・京都市立芸術大学長はいう。

 その1000年後の2008年に記念事業で物語を顕彰しようと提唱されたのが「源氏物語千年紀」。その呼びかけに応じて展開する源氏物語シリーズには関係者の注目も高い。物語の舞台となった京都の自治体や経済界などでつくる千年紀委員会の企画委員、山本壮太さんも「ともに源氏を日本、さらに世界に発信し、次世代に継承できれば」と期待する。

  一方、出演者の物語やイベントへの思いも熱い。幕開けを告げる舞台公演で雅楽や舞を披露する東儀秀樹さんは「光源氏の繊細な心だけでなく、物語の背景まで感じてもらいたい」とコメント。第1回の「源氏の世界を語る」リレー塾で朗読も行う女優の水谷八重子さんは「1000年前の平安朝の情景を心に生き生きと浮かべてもらえれば」と話す。

  いづれの御時にも、輝きを失わず人々を魅了してきた「源氏物語」。そして、千年紀を迎える今、イベントシリーズで新たな輝きを放つ。

吟行で源氏の世界疑似体験…歌人・俵 万智さん

 

 「源氏物語」から選んだ和歌と、現代語で訳した「万智訳」短歌を並べ、源氏を読み解いた「愛する源氏物語」の著者で、吟行会の選者・講師を務める歌人の俵万智さんに作中の和歌や吟行会への思いを聞いた。

 当時の和歌は、今のメールのように、心を伝える実用品として生き生きと活躍しており、源氏物語にも恋愛の行方を左右する和歌が多いですね。ただ、読者も錯覚しがちですが、そんな多様な人物の思いが凝縮した和歌の数々を紫式部という作者一人が、性格や状況に応じて詠み分けているわけです。その「成り代わり」の技量はまさに凄(すご)い、恐ろしいほどです。

 そんな和歌を含め、源氏には過去の世界に誘(いざな)ってくれる楽しみ、一方で、時を経ても変わらない人の心を読む楽しみ、その両方があるから色あせない。イベントを通して、源氏の魅力に触れるきっかけが生まれれば素晴らしい。

 吟行は、その日の天候や場所によって“生もの”としての歌作りが楽しめます。恋愛の成り行きに応じて歌を作っていく源氏の世界の疑似体験とも言えます。

 より深く楽しむためには、事前に源氏や吟行場所の知識を蓄えて気分を高め、当日には、その準備が役立たないぐらいの発見ができれば最高。とにかく源氏との出会いを通して、それぞれの歌の世界をぜひ広げてほしいですね。

2007年02月26日  読売新聞)